若山牧水賞【若山牧水賞運営委員会】

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ホーム > 歴代受賞者 > 第3回若山牧水賞(1998年)永田 和宏

歴代受賞者

第3回若山牧水賞

受賞者 永田 和宏ながた かずひろ

昭和22年 滋賀県生まれ
京都大学理学部物理学科卒業

永田 和宏
受賞作品 歌集『饗庭』(あえば)
◎発行所/砂子屋書房
◎発行年月日/平成10年9月1日
~自選16首~
やわらかき春の雨水の濡らすなき恐竜の歯にほこり浮く見ゆ
今夜われは鬱のかわうそ 立ち代わり声をかけるな理由を問うな
昨日の夜の酔いはぼろぼろ 脈絡の何処に君の笑いいし声
水鳥の水走る間の蹠のこそばゆからむ笑いたからむ
つまらなそうに小さき石を蹴りながら橋を渡りてくる妻が見ゆ
顔以外で笑えることを喜んでいるかのように犬が尾を振る
千年の昼寝のあとの夕風に座敷よぎりてゆく銀やんま
あきらめて優しくわれはあるものをやさしくあれば人はやすらう
右京より人訪ね来し右京には今日かすかなる紺のかざはな
扉(ドア)の向こうが海だとでもいうように君はもたれおり昔も今も
小さき脳をスライスにして染めているこの学生は茂吉を知らぬ
影を脱いでしまったきりんはゆうぐれの水辺のようにしずかに歩む
ねむいねむい廊下がねむい風がねむい ねむいねむいと肺がつぶやく
夕暮れの把手(ノブ)ははつかに濁りいつ<どこでも扉(ドア)>などどこにもあらぬ
雨の日に電話かけくるな雨の日の電話は焚火のようにさびしい
酔っていることのみ告げて切れしかば夜の受話器はとろりと重い
受賞歴 平成9年 歌集『華氏』により第2回寺山修司短歌賞受賞
平成10年 歌集『饗庭』により第3回若山牧水賞及び、第50回読売文学賞受賞
作歌活動 京都大学在学中に「京大短歌会」入会、高安国世に師事。
現在「塔」短歌会編集代表
南日本新聞歌壇選者

歌集:『メビウスの地平』『黄金分割』『無限軌道』『やぐるま』
評論集:『表現の吃水-定型短歌論』『解析短歌論-喩と読者』
ほか